放射光_はじめに(2)

ここでは放射光の代表的ともいえる特長を少し詳しく説明します。逆に言えば、ラボ装置では困難なこと、放射光が使われる理由です。

 

 

 

 

1. 非常に強いX線強度・・・短時間で実験ができる!

X線回折など、1条件当りのX線照射は秒単位で済む場合があります。X線吸収微細構造(XAFS、ザフスと呼ばれます)では照射するX線のエネルギーを分光器で少しづつ変化させて吸収スペクトルを得ますが、概ね20分間位で1回の実験ができます。(Quick XAFSという手法なら1分間位でも可能)。多数のデータポイントが必要になるほど、X線の輝度が実験時間に利いてきます。コンピュータートモグラフィ(CT)や走査型のイメージングなどは、実質的に放射光でないと実験はかなり困難と言えます。

また、試料が経時変化を起こす場合や、試料の反応過程をX線で追跡したい場合には、十分に早い観測系を準備する必要があり、やはり放射光の出番が多くなります。

 

2. 幅広い波長域(エネルギー)・・・スぺクトル分析ができる! 波長が選べる!

これが放射光の無二とも言える特長かもしれません。単に幅広いだけでなく、輝度の変化がなめらかな点も重要です。

元素がX線を吸収するエネルギー(吸収端)は元素の個々で別れており、その元素のX線吸収端付近の、典型的には数100 eVにわたる範囲のX線吸収スペクトルには、電子状態や近傍の空間情報(端的には近接する原子との距離)が含まれています。それをスペクトル分析する手法がX線吸収微細構造解析(XAFS、X-ray Absorption Fine Structure)です。エネルギー掃引をおこなうため、ブロードな特性を持つ放射光でないと実験できない手法です。

 

XAFSには、特に吸収端近傍に着目した、主として電子状態や価数などを分析するX線吸収端近傍構造(XANES、ゼインズ)と、着目する元素の近傍の空間構造を分析する広域X線吸収微細構造(EXAFS、イグザフス)に別れます。これらを含めて、X線吸収スペクトル(X-ray Absorption Spectrum、XAS)分析という表現もよくつかわれます。材料分析には不可欠の実験手法です。

また、幅広いスペクトルの中で、実験に最適な波長を分光器を使って取り出せることことも大変大きなメリットです。

 

3. 指向性が抜群・・・像がシャープ! ナノビームや干渉性を利用した実験が出来る!

放射光は指向性が非常に高くボケが少ないので、X線回折などではビームを1 mm以下、典型的には0.2 mm程度に絞って利用されます。得られる回折像もシャープなため、特にタンパクなどの複雑な分子の、つまり回折像が非常に複雑になるような、単結晶構造解析に威力を発揮します。

また、ビームを絞れるため(輝度が高いので絞っても十分に実験できる)、試料のサイズが20ミクロン~10ミクロンという小さいものであっても実験が可能です。複雑な分子の単結晶化はかなり困難な作業なので、小さな単結晶で結晶構造解析ができるという点は大きな魅力です。

さらに、ビームを0.1ミクロン以下に成形して走査型のイメージングに活用したり(但しこれが出来るのは一部の施設)、結晶欠陥の評価や生体組織の分析に威力を発揮する位相コントラストイメージングなども、指向性(干渉性)を活かした実験手法と言えます。

 

4. 偏光・・・磁気異方性や光学異方性の分析に使える!

放射光は通常の状態で偏光しています。電子の軌道面内では直線偏光、軌道面の上下で円偏光となっています。より積極的には、挿入デバイスや偏光素子を使うことで目的の偏光状態を得ることもあります。

偏光を使うと試料の異方性を評価することが出来ます。また円偏光は磁性体やらせん(キラル)構造をもつ物質の測定に用いられます。代表的な手法として磁気円二色性(X-ray Magnetic CircularDichroism: XMCD)分光があります。XMCDは極めて高感度であり、単原子層でも磁気測定が出来ます。X線や真空紫外の領域で偏光を得る方法は放射光だけです。