XAFS(X線吸収微細構造)
XAFSは、入射するX線エネルギーを変えながら物質による吸光度を測定する実験方法であり、そのスペクトル解析から着目する原子の近傍の局所的な空間構造(隣接原子との精密な距離)や化学状態(電子状態、価数)を知ることができます。主な手法として吸収端近傍を解析するXANES(X-ray Absorption Near Edge Structure)と広域のスペクトルを解析するEXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure)があります。分析する試料は固体、液体、気体のいずれの状態でも可能です。軽元素の計測では軟X線を用いるために真空中での実験となりますが、概ねリン(P)や硫黄(S)以上の元素は硬X線を使っての大気中での実験が可能です。大気中で、透過法で測定する場合の典型的なセッティングは例えば下図のような形です。試料の前後においたイオンチャンバー(電離箱)により透過するX線強度を測定する事で、試料の吸光度を計測するものです。
XAFSは、幅広いスペクトルが得られる放射光の特長を活かした代表的な手法であり、構造材料、化学、環境、エネルギー、宇宙、医療等の様々な分野の物質構造解析に使われています。測定法としては、透過法、蛍光法、電子収量法などのバリエーションがあります。透過法では試料濃度の下限は概ね1%程度で、それ以下の濃度では蛍光を測定する蛍光法や、発生する二次電子の量を電流として測定する電子収量法が使われます。下図は典型的なスペクトルで、EXAFS領域に現れる振動パターン(XAFS振動)は、X線によって励起された元素から発生する光電子が近接原子によって反射することで生じる干渉パターンです。この干渉パターンをフーリエ変換することで距離情報が得られます。一方、XANESは、光電子を発生させるには僅かに及ばない入射エネルギーによる、高エネルギー準位への励起に対応し、内殻の電子構造を反映しているため、この領域のスペクトルパターンから化学状態の推定によく用いられます。
参考 「 XAFS実験の基礎」 (KEK 物質化学G 仁谷浩明助教作成)
光電子分光
光電子分光は、物質に光をあてて放出された電子(光電子)のエネルギーを調べることにより、物質中の電子状態を調べる分析手法です。内殻準位の電子エネルギー分布、元素の種類、価数状態などが判ります。また、価電子帯の電子エネルギー分布やバンド分散から、電気的・磁気的・熱的な特性などがわかります。
装置は、放出された光電子のエネルギーを精度良く測定するための大きな半球型のアナライザーが特徴的です。非破壊で、元素選択的な化学状態や、その表面・界面からの深さ分析を行うことができます。この方法は従来より半導体デバイスの表面・界面の分析を含め、あらゆる材料の分析に用いられており、放射光は、高いエネ ルギー分解能でかつ高効率・高精度な分析法として、多く利用されています。
粉末X線回折
X線回折(X-ray diffraction, XRD)は、規則的に並んだ結晶格子面にX線を入射すると、特定の方向に強いX線が散乱される現象(回折現象)を利用した測定法です。回折X線の位置や強度、ピークの線幅などから結晶固有の規則性に関する情報が得られ、結晶中の原子の位置、結晶性(結晶粒のサイズ)、結晶の配向性(結晶方位の分布)などの解析が可能です。
X線小角散乱
X線小角散乱(Small-Angle X-ray Scattering, SAXS)は、物質にX線を透過させた時、およそ5度以下の角度領域に現れる散乱を小角散乱と呼び、その散乱角度に対応する数ナノ~数百ナノ メートルの空間スケールの物質の構造情報を解析する手法です。測定試料は、有機・高分子薄膜、結晶性高分子、ブロック共重合体、金属材料、生体高分子、脂 質、繊維など多岐に渡り、それらの分子サイズ、形状、周期構造、配向性などに関する情報が得られます。また、結晶解析と相補的な利用の形態により、希薄溶液中の酵素等の単分子構造解析を行う場合にも多用されています。
通常はカメラ長は3m程度ですが、SPring-8のBL19B2は他に類を見ない40mのカメラ長の超小角散乱の実験が可能であり、高分子材料等の構造解析に威力を発揮します。
蛍光X線分析
蛍光X線分析は、X線照射により内殻電子が励起されてできた空孔に外殻の電子が遷移する際に放射される蛍光X線を測定することにより、微量元素分析や化学状態分析を行う手法です。非常に感度の高い非破壊元素分析法として、生物や岩石、考古学試料、環境試料の分析、物質材料の評価などに使われています。典型的には1ppm以下の微量元素の検出も可能であり、微量元素の存在比を指紋のように使って試料の由来を同定したり、試料を2次元的に走査することで着目する元素のマッピングを行うなどに多用されます(図は植物の葉に存在する各元素の分布測定例)。
X線CTイメージング
X線CTイメージングは、放射光の可干渉性と、コンピュータを用いた画像処理を活かしたイメージング手法であり、非破壊で物体内部の3次元構造を可視化することが出来ます。その代表的な手法が位相コントラスト法であり、X線干渉計という装置によっ て試料によるX線の位相のずれをコントラストとして見る方法です。軽元素主体の生体の場合では吸収コントラスト法に比べ数百倍以上高感度の像を得ることができます。医療・バイオ分野の研究においては、従来では見えなかった組織や病変を捉える挑戦が行われています。空間分解能は検出系の構成に依存しますが、通常は10-20μm程度、高解像にセッティングすることで数μm程度まで可能です。
X線トポグラフィ
X線トポグラフィは、結晶内部の転移、欠陥、格子歪などを非破壊で2次元的に可視化する手法です。結晶欠陥の周囲では結晶格子の歪みにより回折X 線強度が増大することにより画像化されます。試料の内部を含めた欠陥を評価する透過法と、表層(数μm~20μm程度)の評価に適した反射法があります。解像度は使用する検出器によって決まりますが、目安としてはX線CCDカメラで6ミクロン程度、原子核乾板では1ミクロン程度です。サンプルを走査することにより、半導体ウエハ全面の評価も可能です。従来よりシリコン等、高品質の結晶素材・デバイスの製造法の開発や改良に大いに貢献してきましたが、現在では ワイドギャップ化合物半導体の結晶評価等によく使われています。