しばしばお問い合せをいただく、典型的なご質問とその回答を下記に記します:
Q1:最短でxxxの実験ができる施設がどこかアドバイスが欲しい
A1:例えば特許拒絶査定の反論時などのような、時間的な側面が重要な場合には、光ビームNWのホームページで施設の運転日をカレンダーで掲載していますので、まず運転日で目途を付けるのが早道です。放射光施設のビームタイムは混んでいることや手続き等のため、最も早くて2週間後と思って頂くと良さそうです。なお、定型的な測定で差し支えない場合には、実験ホール(=放射線管理区域)に立ち入らず、測定をお任せする形の『測定代行』が便利で早い解決方法かもしれません。
測定代行を念頭におき、実験手法や実験目的などを施設のお問合せ窓口にご相談下さい。放射光施設の場合はその施設の光源特性により、期待する実験が難しいケースがあります。実験手法については施設横断検索(※AichiSRで運用を継続)調べるのが便利です。
Q2:論文にあるような手法、性能はどの施設なら可能か、教えて欲しい
A2:実験手法について、まずは上記の施設横断検索で実験事例を調べることをお薦めします。論文に書かれている手法は独自の工夫がなされている場合が多いでしょうし、機能的には可能であっても性能面(例えば分解能やS/Nなど)で難しい場合もあるかもしれません。各施設のお問合せ窓口でコーディネーターとご相談ください。他施設の利用が適していると思われる場合には、そのようなアドバイスを受けることもできます。
Q3:実習で経験を積みたいが、どうすれば良いか情報が欲しい
A3:一つの方法は講習会です。各施設では利用講習会を定期/不定期で行っています(多くの場合で参加費は無料です)。講習会や研究会などについては各施設のウェブサイトや本ウェブサイトでご紹介しています。また学会による講習会もあります。ただ、初級~中級の内容が多いことや手法別で行なわれるため、特定の手法について集中的に経験を積みたい場合には、共同研究や研究員の形で実習を個別にプログラムする方が良いかもしれません。受入れや取り扱いは施設によって異なります。息の長い取組になりますので、ご興味のある方は各施設でご相談ください。
Q4:自分が知っている手法よりも有効な他の手法がないのでしょうか?
A4:これは少々難しい問題です。機能・性能面で優れた手法のお探しの場合もあれば、費用や時間的な効率でお悩みの場合もありそうです。
例えば空間解像度を優先して元素マッピングを行いたい場合は、STEM(走査型透過電子顕微鏡)を使ってEDX(エネルギー分散型X線分析)やEELS(電子エネルギー損失分光)を観測する方が、放射光分析よりも良い場合がありそうです。また、放射光分析においても様々なアプローチの手法があります(例えばイメージングにしても2次元検出器を使う方法やビームを走査する方法など)。費用対効果の観点では、放射光分析はラボ装置よりも一般的に費用がかかり、時間的制約も大きいため、ラボ装置で十分な結果が得られる場合にはラボ装置の実験を優先する方が効率的です。放射光分析は、ラボ装置で見極めをつけてから、実験計画を考えて行うことが手順として良いように思われます。問合せ窓口にご相談頂ければ、他のプラットフォームへの斡旋紹介などを含めて、ご相談をお伺いします。
Q5:データの解析は教えてもらえますか?
A5:施設のご利用によって得られた実験結果の一次的なデータ処理は、支援を受けられる、とお考え頂いて概ね差し支えないですが、内容や程度によりますので、施設のご利用の際にご確認ください。施設の利用料金には解析費用は原則的に含まれていません。ご希望に十分に沿うために、データ解析の支援を有償オプションサービスとして行っている施設もあります(PF)。
他施設の実験結果や過去の実験結果のデータ解析などは、個別にご相談ください。各施設の共同研究や学術指導(PF)で対応できる場合があるかもしれません。あるいは分析会社にご相談されても良いかと思われます。解析方法の講習会は、実験手法の講習会とともに各施設で時々行われています。
Q6:得られたデータが他と違うように見えるが、どちらを信じて良いかわからない
A6:いくつかの原因を考える必要があります。放射光施設は各々が独自設計で、光源特性や光学系の違いによりS/Nやエネルギー分解能が違う、実験ステーションの検出器の性能が違うなどの理由により、見かけ上、スぺクトルの分離やS/Nなどが違う場合があります。また、軟X線実験の場合は実験条件の設定の違い(基準エネルギーの取り方)により見かけ上、スペクトルがシフトする場合があります。その他、迷光や高次光による蛍光などによってゴーストが現れる場合がありますし、試料のチャージアップによってスペクトルがシフトする場合もあります。
データの互換性については光ビームプラットフォームの事業活動として標準化を掲げ、ラウンドロビンを行ってきました。その成果をご覧いただくと参考になるかと思います。
実験設備系以外の原因としては、試料の吸湿等による変性やX線照射による化学変化や構造変化もスペクトルが変化する一因となります。
多くは実験条件の精査によって解消する事が出来ますが、想定外の理由による場合もありえるので、実験を複数回行って再現性を確認した上で、経験の豊富なコーディネータにご相談されるのが良いと思われます。
Q7:実験でどのような結果が期待できるのか、よくわかりません
A7:本ウェブサイト等で分析手法の特徴をお調べの上、各施設のお問合せ窓口、あるいは本ネットワークのお問合せ窓口にお尋ねください。
Q8:どのように申し込めばいいのでしょうか?
A8:実験のお申し込みは多くの施設で「実験課題の申請」と呼んでいます。本サイトの「ご利用案内」のページをご参照の上、不明の点や申請書等は各施設のご相談窓口にお尋ねください。
Q9:費用や工数はどの程度になるのでしょうか?
A9:本サイトのメニューから「各施設の利用制度概要」のページをご参照ください。費用は施設によって異なりますし、成果の取り扱い(公開/成果専有)によっても異なります。また、初回利用の場合に割引が適用できる施設もあります。
例えばPFの標準性能ビームライン(PFでは偏向電磁石を用いるビームラインを”標準性能”、アンジュレータ等の挿入デバイスを用いるビームラインを”高性能”と区別)の成果専有・有償利用のご利用料金は27,800円/時です。非常に大まかな書き方になりますが、実験条件の割出・設定に2時間、大気中の硬X線XAFSなら1スペクトルを得るのに20分間程度なので、12時間(33万3600円)の実験時間があれば、参照サンプル、条件を変えた本番サンプルの実験が一通りできると期待できます。
Q10:どの程度まで実験の支援をしてくれますか?
A10:実験の支援については施設によってスタンスが若干異なるのが実情ですが、少なくとも利用初心者の方に対しては、実験結果を持ち帰って頂くために、施設でも特段の留意を行い、丁寧な実験支援を行っています。ある程度の経験者に対しても、ご希望に添えるように実験支援を有償オプションサービスとしている施設もあります(PF)。
Q11:試料を送るだけで結果を出してくれると助かる
A11:測定代行と呼ばれるサービスがあります。定型的な実験方法に限られますが、最近は需要の多いサービスです。なお、付加サービスの位置づけになるため、利用料金は通常利用よりも割り増しになります。
Q12:低濃度試料のXAFSを測りたいのですが、どの施設なら可能でしょうか?
A12:XAFSの実験方法には透過法と蛍光法があります。透過法は通常濃度の試料に好適ですが、低濃度試料なら蛍光法の適用を考えます(適用下限はppmレベル)。まず測定したい元素のX線吸収端をX線吸収端一覧表で調べます。EXAFSによる構造解析(原子間隔の評価)も考えるならK端を第一優先に、価数の評価ならL端が好適となる場合が多いようです。例えば、MnならK端は6538 eV、L端は630~770 eV (実際はスペクトルに幅があるので文献やスペクトル集で確認することが好ましい)。そのエネルギー域でXAFSが実験できる設備を検索するには、施設横断検索でビームライン検索を行うことで、候補をスクリーニングすることができます(光ビームプラットフォーム構成機関の範囲内)
なお、低濃度試料の実験の注意すべき点は、目的外の元素(不純物成分等)の吸収や蛍光の混入を常に考慮しないといけないことです。そのため、試料の構成元素を十分に把握しておく必要があります。
Q13:放射光施設の光源特性の違い、とは何でしょうか?
A13:いくつかの要素がありますが、第1に挙げられるのが放射光のエネルギー(波長)プロファイルです。放射光はブロードなスペクトル(下左図)を持ちますが、エネルギーのピークは蓄積リングの電子エネルギーによって変わり、高エネルギーの施設ほど、短波長のX線、すなわち硬X線を強く放射します。
元素は各々、固有のX線吸収特性をもっており、K殻、L殻等の電子の軌道準位に応じて特定のエネルギーを強く吸収(X線吸収端)するのですが、原子番号が大きくなるほどX線吸収端は高エネルギー側にシフトします(下右図)。そのため、重元素の分析を行いたい場合には硬X線を得意とする施設を、軽元素の分析を行いたい場合には、軟X線を得意とする施設が好適、という施設の特色がでます。なお、最近は第3世代といって、蓄積エネルギーは3 GeV程度とし、挿入デバイス(光源)で波長を制御する方式が普及しつつあります。その他、エミッタンス(蓄積リングを周回する電子の空間的な広がり、電子ビームの品質の指標)も光源特性として重要な要素ですが、ここでは説明を割愛します。
このような光源特性は施設によって異なり、その中でどのエネルギー領域を取り出すかという光学系の設計により、ビームラインごとに利用できるエネルギー領域が決まります。さらに取り出した光を分光器で単色化する際、光学設計によって、エネルギー分解能(ΔE/E)や高次光や散乱光の混入などが影響を受け、フラックス(光量)も含めて、トータルとしての光の特性が決まり、S/Nに影響を及ぼします。
輝度の典型的な相対評価(PF)