ときどき「放射光はハードルが高いので、、、」というお声を聴くことがあります。そのため、ここでは放射光施設をご利用されたことの無い方にもご理解頂けるように、(記述の正確さは少し横において)平易な形で放射光施設の特長や活用のヒントをご紹介します。 .
放射光は非常に強いX線
放射光は簡単に言うと非常に強いX線です(図1)。
典型的にはX線回折などのラボ装置の100倍~1000程度以上のX線強度が得られます。これが大きな特長の一つですが、そのほかにも様々な特長があり、放射光でないと困難な実験手法がいくつもあります。
そのため、非常に多くの研究者や技術者の方が主として材料分析、構造解析、電子状態解析などの目的のために実験を行っています。 .
放射光施設ってどんなところ?
円形のリング型加速器(蓄積リングとも呼ばれます、図2)を光源とし、その周囲に複数のビームラインが配置された実験施設です。リング型加速器の中では、高い真空状態が保持された中空の加速管の中を電子が高速(光の速度の99.99%以上の速度!)で周回します。この光速に近い速度で運動する電子が、偏向電磁石(図3)等で軌道を曲げられて加速度を受ける時に放射される電磁波が放射光です。
蓄積リングの大きさはさまざまで、その規模は電子の周回軌道の周長で示すことができます。世界最小である立命館SRの約3mから、大型放射光施設であるSPring-8の約1.4kmまで、様々な規模の放射光施設が国内にあります。各施設にはリンクからアクセスしてみてください。 .
蓄積リングでは電子の軌道を周回させるために、多数の偏向電磁石を使っています。その偏向電磁石や、アンジュ―レーターやウィグラ―と呼ばれる直線型の挿入デバイスの箇所で放射光は発生します。そのため1つの放射光施設では多数の放射光ビームを取り出すことができます。
ビームラインは蓄積リングの外側に配置され、放射光を実験装置(ステーション)に導くとともに、その途中で、ミラーやスリットなどによりビームの広がりを整形したり、幅広いスペクトルの放射光を分光器で特定の波長(エネルギー)に単色化する、一種の導波路です。また、ステーションでの作業を安全に行うために放射光を途中で遮断するインターロックや、万一の真空破断事故に対処するための高速ゲートバルブなどが配置されます。
実際の実験ホールの様子としては、物質構造科学研究所のフォトンファクトリーのストリートビューが参考になると思います。
放射光はハードルが高い?
放射光施設は日本国内では現在8施設が稼働しており、大学関係者だけでなく産業界を含めて、年間10,000人以上の多くのユーザーが研究や開発に活用しています。すでに、一部の先端的な研究者のための施設・装置という位置づけではなくなっており、たとえ利用経験のない方でも活用できるように、例えば、相談窓口を充実化させたり、講習会を頻繁に開催したり、技術支援者によるサポートに力をいれたり、一部の実験メニューではお任せで出来る測定代行も導入が進んでいます(その代わりに費用はお高めです)。
もっとも、設備は施設によって異なる点が多いために、ボタン一つでポン!という訳にはいかず、まだマニュアル的な所が多々あることや、実験ホールは放射線管理区域のために手続きが煩雑であること、などが敬遠される理由かもしれません。しかし、一番のハードルは、施設が遠いという事、というのもよく聞くお話です。一旦馴染んでしまえば、専門家に相談しながら実験ができるので、ラボ装置の操作を覚えるよりも楽に良い成果が出るかもしれません。